樹脂に代表される絶縁材料の中でイオンが移動する「マイグレーション現象」は、電子部品の信頼性や安全性に大きな影響を与える重要な劣化要因です。この記事では、電子材料で起こりうる(イオン)マイグレーションの特徴や試験の事例、発生防止のための対策について解説します。
電子機器に用いられる電子材料(とくに樹脂材料)において、マイグレーションが発生しやすくなる要因は複数あります。
樹脂は金属やセラミックスに比べて水分を吸収しやすく、周囲の湿度が高いと樹脂内部に水分が取り込まれやすくなります。水分がイオンを溶解・拡散させる媒体となり、電界が印加されるとマイグレーションが進行する原因になります。
樹脂の合成・加工工程で使用された原材料に起因して、ナトリウムイオン(Na+)や塩素イオン(Cl-)、アンモニウムイオン(NH4+)などのイオン性成分が残留することがあります。残留した可溶性イオンが電界下で移動することで、導電パスの形成やデンドライト成長につながります。
半導体の封止樹脂やブッシング(絶縁スリーブ)などに赤リンを含む樹脂を採用し、マイグレーションにつながったという事例が多数報告されています。赤リンを含む樹脂は、熱や水分の影響でリン酸イオンなどの腐食性成分を生成し、金属電極を化学的に侵食しやすい材料として知られています。
マイグレーションが発生しにくい難燃樹脂材料としてレオナ™やザイロン™を展開している旭化成は、その有用性を検証するために、マイグレーション試験を実施しました。樹脂製の平板に銅電極を貼り付けた試験片を高温・高湿下で高電圧にさらし、所定時間後に電極間へ拡散した銅を元素分析で測定して評価しています。
※参照元:旭化成(https://www.asahi-kasei-plastics.com/trend/ion-migration/)
樹脂材料の平板に銅電極を貼り付けて高温多湿下で高電圧を印加し、一定時間後に電極間の銅分布を元素分析で調査しました。旭化成が展開する難燃樹脂材料と、赤リンを含む樹脂材料が比較されています。

試験の結果、ザイロン™難燃グレードはマイグレーションが発生しませんでした。レオナ™難燃グレードのうち、FR370はマイグレーションが見られず、高い耐性を示しました。SN11Bではマイグレーションが発生。しかし、現象の進行速度は赤リンを含む樹脂材料と比べると半分以下でした。
樹脂や難燃剤といった電子材料でマイグレーションを抑制するためには、不純物が少ない材料を採用したり、実環境に適した難燃剤を使用したりすることが重要です。場合によってはゼオライトやシリカといったイオン捕捉剤を添加するという方法もあります。
樹脂の分子構造や添加剤設計がマイグレーションの抑制に寄与するため、材料選定が最初の防衛線となります。吸湿性が低くイオン不純物が少ない樹脂を採用することで、端子間での短絡リスクを大幅に低減できます。ポリアミドやポリカーボネートよりも吸湿率の低いPPSやPBTなどの樹脂を選択することが有効です。
赤リン系やハロゲン系といった一部の難燃剤は、高温や湿度の条件下で分解し、リン酸イオンやハロゲン酸などの腐食性イオンを生成します。腐食性イオンはマイグレーションを引き起こす誘因となるため、材料選定時には分解挙動も評価するべきです。高い安全性を確保したい場合には、非ハロゲン系やポリリン酸系への切り替えが推奨されます。
樹脂にゼオライトやシリカといったイオン捕捉剤を混ぜ込むと、金属イオンやハロゲンイオンを化学的に吸着して動きを封じ込められます。ただし添加量と分散性のバランスが要で、少なすぎれば有害イオンが残り、多すぎると分散不良による凝集・析出を招きかねません。
電子機器の高密度化・小型化・長寿命化が進む中で、マイグレーションによる信頼性劣化は重要な設計課題となっています。とくに、樹脂、基板、封止材などの電子材料においては、目視によるデンドライト検出が難しく、製品が市場に出てから発生する潜在的不良として深刻です。材料段階からマイグレーション耐性を評価することは、製品の信頼性保証に不可欠といえるでしょう。試験によって問題の兆候を早期に把握することで、使用環境に合った材料選定や設計修正が可能となり、長期的なコスト削減や顧客信頼の向上にもつながります。
対象物に合わせて選べる
マイグレーション試験受託会社
おすすめ2社を紹介
電子材料のマイグレーションは、設計や使用環境によっては見えにくい形で進行し、製品の信頼性を静かに蝕む要因となり得ます。特に高密度実装や長寿命化が求められる現代の電子機器では、材料そのもののマイグレーション耐性を正しく評価し、それに基づいて設計・選定を行うことが不可欠です。
ところで「自社の製品にとって、どんな試験をどんな装置で実施すればよいのか?」という具体的な検討をされていませんか?
マイグレーション試験では、試験対象によって求められる印加電圧の条件が大きく異なります。 たとえば、狭ピッチのプリント基板や微小電子部品などでは数V~数十Vの繊細な電圧制御が求められる一方で、EV部品などのパワーデバイスでは数千Vの高電圧に対応した耐圧評価をする必要があります。
このような背景から、当サイトでは試験機の選定において「印加電圧の大きさ」を判断軸としてマイグレーション試験と試験槽をご紹介しています。 具体的には、低電圧試験に強みを持つ、IMVの試験機と平山製作所の試験槽(HAST装置)の組み合わせ、また高電圧に強みを持つESPECの試験機と試験槽(HAST装置)を比較し、それぞれの特長や活用シーンを整理しています。
現在、マイグレーション試験機の導入・検討をされている方は、ぜひ当サイトのトップページ(下記リンク先)をチェックしてみてください。なお各社は受託試験も行っているため、導入前にまずは受託試験サービスを試してから検討することも可能です。
最適なマイグレーション試験機・試験槽を見つけるヒントに!
印加電圧の違いによって求められる試験環境は大きく異なります。ここでは、対象物に合った試験を強みとする受託試験会社を、2社ピックアップしてご紹介します。

引用元:IMV公式サイト
https://www.landingpage-synergy.com/k4yeiagc/

| 印加電圧設定 | 1.0V~250V |
|---|---|
| 試験所数 | 日本国内7・海外3拠点 |

引用元:ESPEC公式サイト
https://www.espec.co.jp/products/measure-semicon/25kv/

| 印加電圧設定 | 2.5kV |
|---|---|
| 試験所数 | 国内6拠点 |