イオンマイグレーション(エレクトロケミカルマイグレーション)による短絡や誤作動は、ときに大きな事故やリコールにつながります。適切な検査・対策を行うことは、製品の品質担保だけではなく、社会的信頼を守るためにも重要です。
この記事では、イオンマイグレーションのトラブルと防止策について解説します。
製品の短絡や誤作動などのトラブルを防ぐためには、設計の段階でトラブルの要因をなくすことが大切です。イオンマイグレーションの主な発生原因と、発生しやすい箇所・構造について押さえておきましょう。
イオンマイグレーションが発生する主要な原因として、「高湿度・高温」「電圧(電位差)」「イオン性汚染物質」「金属の種類」が挙げられます。
金属イオンは水分を媒介として移動するため、湿度が高い場所ではイオンマイグレーションの発生率が上がります。基板の表面に水分が付着するとそれが電解質となり、金属がイオンとなって溶け出します。この状態で電圧がかかると、イオンが引っ張られるように移動し、再び金属として還元されるのです。これを繰り返すとデンドライト(細い金属の枝)となり、短絡やリーク電流の原因になります。
また、高温になると水分による化学反応が進みやすくなるため、デンドライトの成長が加速します。これらの性質を利用した「高温高湿バイアス試験(THB試験)」という検査方法もあります。
電極の間に電気の差(電位差)があると、金属のイオンはプラス側からマイナス側へと移動します。電位差が大きいほどイオン移動と析出が促され、臨界電界を超えると短時間でデンドライトが成長します。
基板の表面が汚れていると絶縁抵抗が低下しやすく、イオンマイグレーションの要因になります。汚れとは、はんだ付けのときに残った薬剤(フラックス)、手指の汗やホコリに含まれる塩分、樹脂に含まれる化学物質などのことです。
特に、フラックスには吸湿性の高い成分が含まれており、基板上に残ったままでは湿気を引き寄せて導電経路を形成する原因になります。そのため、はんだ付けが終わったら洗浄を徹底し、残渣や汚染物を確実に除去することが信頼性確保の基本です。
銀 (Ag)は非常に起こりやすく、次いで鉛(Pb)、銅(Cu)、スズ(Sn)の順にイオンマイグレーションのリスクが上がります。金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)などの貴金属はイオン化しにくく、デンドライトを生じにくいため、外気に触れる導体に採用されることもあります。
イオンマイグレーションはさまざまな部位で発生しますが、特に以下のような箇所・構造でイオンマイグレーションの条件を満たしやすいことが知られています。適切な材料選択・構造設計・防湿対策を行い、トラブル発生率を減少させることが肝要です。
近年の電子機器は基板配線の密度が高く(ファインパターン化)、些細な汚れや湿気でもイオンマイグレーションの条件を満たします。特に、スマートフォンや家電製品に使われる多層のプリント基板は、配線が詰まっているため、空気中のホコリやフラックス残渣の影響を受けやすい環境です。
コネクタは機器内部と外部をつなぐ接合点であるため、湿気や汚染物質が入り込みやすい部分です。車両のエンジンルームや屋外基地局といった寒暖差の大きい環境では、コネクタ内部で結露が発生することも珍しくありません。
コネクタ端子に銀メッキが使われている場合は、大気中に含まれるわずかな硫黄化合物に触れて硫化銀となり、イオン化しやすくなります。イオン化した銀によってデンドライトが形成されると、端子間マイグレーションの原因になります。
リードやランドが近接しており、目視検査もしにくい箇所では、イオンマイグレーションの予兆が見逃されがちです。BGAパッケージの下面や微小チップ部品の隙間などはフラックス残渣が除去しにくく、樹脂に覆われていない金属パッド同士が狭い間隔で存在するため、汚れや湿気が入り込むとデンドライトが成長しても発見が遅れてしまいます。
半導体パッケージや絶縁材料の中に封入された金属部品であっても、内部でイオンマイグレーションが発生する可能性があります。
特に、封止用の樹脂に赤リンを含む難燃剤が使われている場合は注意が必要です。赤リンが湿気と反応して加水分解されるとリン酸(酸性物質)が生じます。これらの酸性物質が金属に触れると腐食を引き起こし、金属がイオン化するため、樹脂内部に導電路(電気が通る道)が形成されやすくなってしまうのです。銀(Ag)・銅(Cu)・アルミニウム(Al)は腐食の影響を受けやすいため、採用にあたっては事前評価が推奨されます。
過去のトラブルには、製品の信頼性・安全性を向上させる実務上のポイントが詰まっています。ここでは、イオンマイグレーションによる故障の具体的な事例を紹介します。
2000年頃、パソコンやサーバーに使われていたハードディスクドライブ(HDD)に内蔵された制御用LSIで、多くのピン間短絡事故がありました。LSI内部のリードフレームに使われていた銀めっきが隣接ピン間にデンドライトを形成したことが原因です。
加えて、赤リン系の難燃剤が使われていたことも、イオンマイグレーションを加速させる一因となっていました。赤リンが水分と反応して金属を腐食させるリン酸を生成し、金属イオンが発生しやすくなるためです。中でも銀は、リン酸の存在下で電界が加わると腐食が進行しやすい金属であり、マイグレーションリスクが高まります。
この事例では、リン(P)・水分・電界(電圧差)という3つの条件が揃ったことがトラブルを引き起こした要因とされ、エレクトロニクス産業界に広く知られるようになりました。
自動車の機器でイオンマイグレーションが発生したケースがあります。寒冷地にて駐車中にヒーターを使用したところ、回路が一時誤作動する事例が報告されました。急激な温度上昇でオーディオ内に発生した結露が、設計上わずかに残っていたフラックスに吸着したことで、コネクタ付近の短絡を起こしたのです。
この事例を受けて、自動車メーカーは基板実装後の洗浄工程を強化。加えて、コネクタの形状を見直し、水滴がかかりにくいように配置が変えられました。結露を抑えるためにエアコンの制御方法も調整され、同様の誤作動は発生しなくなりました。
家庭用電気製品では、長期間の使用による絶縁劣化が事故につながるケースが見られます。長期使用された機器は損傷が激しく、原因特定が難しい場合もありますが、イオンマイグレーションが一因と考えられるケースも確認されました。たとえば、古いブラウン管テレビやオーディオ機器の基板内部に積もったホコリが湿気を含んでデンドライトが形成され、ショートを起こして発煙・発火に至ったという事例があります。
経年劣化のリスクに対応するため、メーカー各社は長期使用を前提とした設計対策を強化しました。筐体に防塵フィルターを設けたり、内部清掃の必要性を啓発したり、使用期間が10年を超えないよう注意喚起を取扱説明書に明記するなどの対応が取られています。
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イオンマイグレーションを未然に防ぐには、「設計段階」「製造工程」「使用環境」の3つの視点から取り組むことが基本方針となります。材料、化学、電気設計、実装技術、品質保証など社内外の専門分野が連携し、開発の初期段階から一体的な対策を進める体制づくりが重要です。
| 設計段階 |
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|---|---|
| 製造工程 |
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| 使用環境 |
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設計段階でイオンマイグレーションを防ぐには、材料の選定、電気的設計、評価試験において一貫した対策が求められます。
まず考えるべきは、電極や配線に使用する金属の性質です。特に、銀は腐食する条件が多いため、外気にさらさない設計が不可欠です。一方、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)といった貴金属は腐食に強く安定性にも優れています。ただし、コストやはんだ付けの適合性といった実装上の制約もあるため、用途に応じた材料選定が求められます。
赤リン系難燃剤を含む樹脂は比較的安価ですが、水分と反応するとリン酸が発生するため、金属腐食や導電路形成のリスクがあります。採用する場合には、加速劣化試験による信頼性確認が欠かせません。
また、プリント基板に使用されるソルダーレジスト(絶縁保護膜)の吸湿性や、電解腐食に対する耐性も、製品の長期的な信頼性を左右します。車載や産業機器など、過酷な環境下でも動作の安定性が要求される分野では、イオン汚染に強いソルダーレジスト材料を採用するのが一般的です。
電気設計においては、電極間の距離や沿面距離を十分に確保する必要があります。特に高電圧を扱う用途では、IEC 60664-1やIPC-2221などの規格に準拠した設計基準に従わなければなりません。
高電位差を持つパターンが近接しないようにレイアウトし、洗浄・コーティングが困難な領域(BGAパッケージの下部やコネクタ付近など)には高電位パッドを配置しない設計を採用します。加えて、必要に応じて絶縁溝やバリア構造を取り入れ、導体間の浸水経路を長くすることで、マイグレーションのリスクを低減できます。
製品の設計妥当性を確認するためには、評価試験が欠かせません。まずは高温高湿(85℃/85%RH)、HAST、不飽和加圧蒸気試験などの加速劣化試験を通じて安全マージンを検証します。試験中は連続的に監視してデンドライトの成長を評価し、必要に応じて光学顕微鏡や電子顕微鏡(SEM)で金属析出の有無を観察します。
加えて、車載機器、医療機器、通信インフラなど用途ごとに定められた業界規格(IEC、IPC、AEC-Q100/Q200、FDAなど)を参照しながら、長期信頼性に耐える設計がなされているかを多角的に確認することも重要です。
製造工程でイオンマイグレーションの発生を防ぐには、工程全体を通じて、汚染物質の除去、実装条件の最適化、適切な防湿処理が重要です。
製造現場では、湿度や温度の管理、クリーンルームの活用、イオン交換水の導入といった環境整備により、異物やイオンの混入を最小限に抑えることが基本です。基板の清浄度を保つにはROSE試験やイオンクロマトグラフィーを用いたイオン濃度の定量評価が有効で、ロット単位での定期検証が推奨されています。
また、作業者による汚染を防ぐため、素手で基板に触れるふれることは避け、手袋着用や静電気対策を徹底します。フラックス残渣はマイグレーションの主な原因の一つで、アクティブフラックスを使用する場合は、専用溶剤や超音波による洗浄が必要です。ノークリーニングフラックスを使用していても、残渣の影響についてECM評価試験(85/85試験やSIR試験など)を行うことが望ましいといわれています。
はんだ付けで不良が出ると、はんだの再修正によってフラックス量が増え、汚染リスクが高まるため、高い初回良品率を目指すことが信頼性向上につながります。酸化や濡れ不良対策として、適切な温度プロファイルの設計や窒素雰囲気でのリフロー導入が効果的です。
BGAやLGAなどの微小チップは部品下に洗浄しにくい空間があり、フラックス残渣が残りやすい構造をしているため、アンダーフィルや底面コーティングで隙間をなくすこともあります。
実装後はX線検査や外観検査に加え、絶縁抵抗の測定を行い、目に見えない初期劣化やマイグレーションの兆候を早期に検出することも重要です。
コンフォーマルコーティングやポッティング処理は重要な防湿・防汚対策です。アクリルやウレタンなどのコーティング材で基板全体を均一に塗布するコンフォーマルコーティングは、イオンマイグレーションや腐食を防ぐ重要な対策であり、狭隘部(配線間が狭い箇所)や高電圧部分の絶縁強化として有効です。
屋外で使用される設備やリチウムイオン電池の保護モジュールなどでは結露が発生しやすいため、ポッティング(樹脂充填)による完全密封が選ばれることもあります。封止樹脂は流し込んで充填するものであるため、樹脂の流動性や充填状態を管理することが重要です。
電子機器の長期信頼性を確保するためには、湿気・結露の管理、ユーザーへの共有といった外的要因への備えが重要です。ここでは、代表的な使用環境での対策を紹介します。
湿気が多い場所や気温差の大きい環境では、装置内部に結露が発生しやすくなり、腐食やイオンマイグレーションのリスクが高まります。そのため、設計段階で換気構造やヒーターを組み込み、結露を防ぐ必要があります。航空機や宇宙機器のように高い安全性が求められる機器では、あらかじめ乾燥したガスを充填して密閉する方法も採用されています。
家電製品や工場機器は長期使用されやすく、内部に蓄積したホコリや塩分が電気トラブルの原因になりかねません。特に、海沿いや化学工場付近といった腐食性ガスを含む大気環境では基板表面が汚染されやすく、イオンマイグレーションのリスクも高まります。未然に防ぐためには、こまめな点検や定期的な清掃を実施することが大切です。
一般消費者向けの家電製品は、あらかじめ「水濡れに注意する」「長期間使わないときは乾燥した場所に保管する」といった情報を取扱説明書に明記し、正しい使い方を促すことが推奨されています。
一方、通信機器やインフラ設備などの業務用機器では、フィルターの取り付けや適切な設置方法の周知・徹底が重要です。設計段階で想定された使用環境や運用条件が守られるよう、保守担当者や設置業者に正しい情報を共有することが求められます。
マイグレーション対策は、設計・材料・洗浄・使用環境の見直しだけでなく、実際の使用条件に近い環境で評価し、リスクを確認することも重要です。対策後の信頼性を確認したい場合は、受託試験に対応している会社へ相談する方法もあります。
イオンマイグレーションは一夜にして起こるような即時的な故障ではなく、時間をかけて少しずつ進行します。新品状態の製品では異常が検知されにくく、通常の通電試験では見逃されることも珍しくありません。さらに、デンドライトが焼き切れると一時的に消失することもあり、見かけ上問題が解消したように見える場合もあります。自己回復的な挙動があると、従来の検査方法では異常を捉えきれません。
信頼性を本当に確保するには、高温高湿環境での長時間試験、絶縁抵抗の連続監視、電圧ストレスや結露サイクルなど、実使用以上に厳しい条件を意図的に与えて劣化を再現する評価が求められます。こうした試験を通じて、早期にマイグレーションの兆候を捉え、潜在的な不具合をあらかじめ洗い出すことが重要です。
イオンマイグレーションによるトラブルを防ぐには、「発生リスクの把握」にあわせて、適切な評価試験の実施も不可欠です。
マイグレーション試験では、試験対象によって求められる印加電圧の条件が大きく異なります。 たとえば、狭ピッチのプリント基板や微小電子部品などでは数V~数十Vの繊細な電圧制御が求められる一方で、EV部品などのパワーデバイスでは数千Vの高電圧に対応した耐圧評価をする必要があります。
このような背景から、当サイトでは試験機の選定において「印加電圧の大きさ」を判断軸としてマイグレーション試験と試験槽をご紹介しています。 具体的には、低電圧試験に強みを持つ、IMVの試験機と平山製作所の試験槽(HAST装置)の組み合わせ、また高電圧に強みを持つESPECの試験機と試験槽(HAST装置)を比較し、それぞれの特長や活用シーンを整理しています。
現在、マイグレーション試験機の導入・検討をされている方は、ぜひ当サイトのトップページ(下記リンク先)をチェックしてみてください。なお各社は受託試験も行っているため、導入前にまずは受託試験サービスを試してから検討することも可能です。
最適なマイグレーション試験機・試験槽を見つけるヒントに!
印加電圧の違いによって求められる試験環境は大きく異なります。ここでは、対象物に合った試験を強みとする受託試験会社を、2社ピックアップしてご紹介します。

引用元:IMV公式サイト
https://www.landingpage-synergy.com/k4yeiagc/

| 印加電圧設定 | 1.0V~250V |
|---|---|
| 試験所数 | 日本国内7・海外3拠点 |

引用元:ESPEC公式サイト
https://www.espec.co.jp/products/measure-semicon/25kv/

| 印加電圧設定 | 2.5kV |
|---|---|
| 試験所数 | 国内6拠点 |