リチウムイオン電池では、「マイグレーション」は性能に必要不可欠なイオンの移動を指します。一方で、材料・成分の偏った移動や侵入は劣化や故障の原因になるため、製造・設計・運用のすべてにおいて注意するべき現象です。ここでは、リチウムイオン電池の(イオン)マイグレーションとその原因、安全な製品を作るために抑えるべき要点について解説します。
リチウムイオン電池におけるマイグレーションは、有益なもの(正常な機能)と有害なもの(劣化や事故)に分類できます。
リチウムイオン電池は、正極と負極の間を行き来するリチウムイオンによって充電と放電を行います。正常なマイグレーションの鍵となるのは、均一なSEI膜と導電ネットワークです。両者が整えばイオンと電子が効率良く流れ、容量維持率やサイクル寿命が向上します。安定したマイグレーションこそが高性能セルを支える基盤です。
電池性能の低下と安全性リスクを同時に拡大させる要因として、バインダー偏在・金属イオン移動・デンドライト形成が挙げられます。
電極内のPVDFバインダーは、乾燥条件が不適切だと表面に集まってイオンの通り道をふさぐため、出力や容量が下がる原因となります。さらに高温・高電圧状態では正極金属が溶け出し、負極側で析出して内部短絡を誘発しかねません。加えて、低温の環境に置かれた状態で急速充電すると、負極に針状のリチウム(金属デンドライト)が伸び、セパレータを貫通して発煙・発火につながる恐れがあります。
PVDFといったバインダーのマイグレーションを評価するために、EPMA(電子プローブマイクロアナライザー)を用いた事例があります。

リチウムイオンバッテリーの電極は、活物質・導電助剤・増粘剤・結着材(PVDF)・溶媒を混ぜたスラリーを金属箔(AlやCu)に塗って作られます。製造時の乾燥工程にて、溶媒が蒸発する際に起こるのが、結着材(PVDF)が電極表面に移動するマイグレーション現象です。表面に結着材が偏ると、リチウムイオンの移動が阻害されてバッテリーの充電・放電効率が下がります。逆に、集電箔近くで結着材が不足すると、活物質の反応性が高まりすぎる、あるいは材料が剥離しやすくなって、耐久性が低下します。
※参照元:JAPAN TESTING LABORATORIES(https://jtla.co.jp/news/epma.html)
PVDFのマイグレーションの評価に有用なのが、EPMA(電子プローブマイクロアナライザー)です。まずは加工した電極断面(イオンミリング)に対して、FE-EPMAで元素マッピングを実施。PVDFの主成分であるフッ素(F)の分布を可視化します。活物質の主成分であるコバルト(Co)の信号と干渉するため、Coのマッピングも同時に行い、補正して正確なフッ素分布を得ます。マッピング結果をプロファイル化することでPVDFの偏り傾向を数値で評価でき、製造条件の最適化や工程改善に応用できます。
想定していないイオンや成分の移動を防ぐためには、以下のような対策が有用です。
リチウムは水分と激しく反応するため、湿気による不純物の移動や電解液の分解を抑えなければなりません。製造工程では湿度製造ライン全体を露点 −50 ℃(22 ℃換算で0.05 %RH相当)のドライルームで運用することで、材料中の水分由来の副反応や腐食を防げます。
SEI(固体電解質界面)膜の均質性と化学的安定性が、想定外の物質移動を防ぐ鍵となります。初期化工程では25 ℃付近で低電流を流し、電圧を段階的に上げてゆっくりSEIを育成し、リチウムイオン以外のイオンや副生成物の移動を抑制。電解液にはVCやFECなどのフィルム形成添加剤を0.5〜2wt%ブレンドし、さらにLiFSI系塩を主塩とすると、機械的に弾性の高いSEIが得られます。
乾燥工程でPVDFバインダーが一部に偏らないように制御することで、リチウムイオンの移動経路が均等に保たれ、局所的な濃度差や反応の偏りによる劣化リスクを低減できます。スラリーは真空脱泡しつつ高速ディスパーミックスで5 min、低速ホモジナイズで20 minと二段撹拌し、粒子とPVDFを均質化します。塗布はスロットダイ方式を採用し、乾燥は60 ℃→90 ℃→110 ℃の三段プロファイルで10%ずつ溶媒を抜くと表面偏在を防げます。
リチウムイオン電池の安全性は、正常時の信頼性だけでなく、異常時でも危険な状態に至らないことまで含めて評価されるべきです。安全試験は単なる検査ではなく、設計・材料選定・製造工程の妥当性を裏付けるための不可欠なプロセスといえます。電池の種類・構成を決め、用途に応じてリスク評価を行い、規格・法令へ適合しているかといった観点から安全性試験計画を検討することが重要です。
対象物に合わせて選べる
マイグレーション試験受託会社
おすすめ2社を紹介
リチウムイオン電池におけるイオンマイグレーションは、本来必要なリチウムイオンの移動と紙一重の現象であり、設計や製造の些細な偏りが大きな劣化や事故につながるリスクを孕んでいます。特に高密度化や急速充電が求められる昨今、バインダー偏在やデンドライト形成といった課題は、もはや見逃せない重要テーマとなっています。こうしたリスクに対して、信頼性を科学的に評価し、安全性を裏付けるには、適切な試験設計と装置選定が不可欠です。
ところで「自社の製品にとって、どんな試験をどんな装置で実施すればよいのか?」という具体的な検討をされていませんか?
マイグレーション試験では、試験対象によって求められる印加電圧の条件が大きく異なります。 たとえば、狭ピッチのプリント基板や微小電子部品などでは数V~数十Vの繊細な電圧制御が求められる一方で、EV部品などのパワーデバイスでは数千Vの高電圧に対応した耐圧評価をする必要があります。
このような背景から、当サイトでは試験機の選定において「印加電圧の大きさ」を判断軸としてマイグレーション試験と試験槽をご紹介しています。 具体的には、低電圧試験に強みを持つ、IMVの試験機と平山製作所の試験槽(HAST装置)の組み合わせ、また高電圧に強みを持つESPECの試験機と試験槽(HAST装置)を比較し、それぞれの特長や活用シーンを整理しています。
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最適なマイグレーション試験機・試験槽を見つけるヒントに!
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引用元:IMV公式サイト
https://www.landingpage-synergy.com/k4yeiagc/

| 印加電圧設定 | 1.0V~250V |
|---|---|
| 試験所数 | 日本国内7・海外3拠点 |

引用元:ESPEC公式サイト
https://www.espec.co.jp/products/measure-semicon/25kv/

| 印加電圧設定 | 2.5kV |
|---|---|
| 試験所数 | 国内6拠点 |